がらくた銀河

磯崎愛のブログです。本館は小説サイト「唐草銀河」。

なにげにフローベール再読中。『三つの物語』と『紋切型辞典』

「完璧な物語」。
もしもそう呼べるモノがあるとしたら、わたしならとりあえずコレを挙げとくかな、ってのが、以下の本。

 

三つの物語 (1953年) (新潮文庫〈第515〉)

三つの物語 (1953年) (新潮文庫〈第515〉)


今、わたしの手許には『三つの物語』(新潮文庫)の第四版(昭和33年)がある。値段は60円。60円? そう、なんど見ても60円です。ビックリ!
父の本棚からかっぱらってきた(笑)ものですが、ハトロン紙もなかなかに綺麗です。
これを読んだときからずっと「なんていう完成度! なんという完璧な物語!!」と感嘆符つきで思い続けてきたんですが、フローベールというと、まずあがるのが『ボヴァリー夫人』であって、じぶんのまわりでは、意外とこのタイトルを口にするひとが少ないような気がします。
いやでも、コレ、ほんっとおおおおおに、「完璧」です。とにもかくにも美しい! 全方位、どこをどう意地悪く見ても美しい!
といいながら、ラストの「エロディヤス」がちょっと落ちるかなあと思わなくもないですが*1、それだって、前ふたつの「純な心」と「ジュリアン聖人伝(旧仮名じゃなくてスミマセン)」の、震えのくるような完璧さ、神様が拵えたような手妻を思えば、人の子の手になる芸術品であると知れてよいのです。安心します。ええ。
なんてことをしみじみ考えていましたら、先日、同じく父の書棚から抜いてきたこちら。



これは初版。昭和28年。ふえええ。
なんか、この文庫、背が低くてちっちゃいんですよ。上下の空きもないし。読みづらいなあと思いながらペラペラ好きな作家のとこだけ拾い読みしてたら、あら、面白いことが!

「デュ・カンやブーリエや役所の検閲官たちの友情にみちた改訂」をまぬがれたと思われる唯一の作品は『三つの物語』である――これは三つの短いが完璧な物語りであり、夫々のものは書きあげるのに数年間かかっていた。こういう物語りではフローベールの才能が「助言」によって妨げられず、「改訂」によっていたけられないで表現されている。

「作家と友人――フローベール」より抜粋(旧仮名じゃなくて以下略)

 

そうか、やっぱりあれだけの完成度を保つにはフローベールほどのひとでも「数年」かけてるのね……ってソコじゃなくてっ!
わたし、生意気をいうと(じぶんのことは棚にあげまくるYO!!)、この『三つの物語』の完璧さと比べるとボヴァリー夫人とかはモタモタしてるところがあるなあと思ったりしてたのですが、そういうわけだったんだあ、とすっかり腑に落ちましたですよ。
あ、そうだ。
ジーン・ウルフの『ケルベロス第五の首』(これも完璧な、超完璧な物語!!)は、プルーストナボコフとの比較はあっても*2フローベールのこれと同時に語られるのを見たことはないけれど、みっつの文体(物語形式)が用いられ、おそらく似たような問題意識(歴史叙述、ルポ、神話伝説の類など)でもって描かれてるはずです。
ウルフふぁんは、その意味でも要チェック!

 

ケルベロス第五の首 (未来の文学)

ケルベロス第五の首 (未来の文学)


 

それから、『紋切型辞典』は新訳でよみました!


紋切型辞典 (岩波文庫)

紋切型辞典 (岩波文庫)


感想は、ええと、「レムのようなことをしようとしていたフローベール」の発見、かな。
昔よんだときは単純に、言語の使用される領域や区分のおはなしだと思ってたけど、もっと深くてこんがらがったものだった。でもって、『ブーヴァルとペキシェ』を無茶苦茶よんでみたくなりました! 
えっとね、恥ずかしいけどね、若いころは「未完のもの」なんて読みたくなかったんですよ。終わってないなんてイヤって思ってた。閉じてない物語が嫌いだった。でも、いまのわたしは違う。
なんか、そういう感じ方の違いとかも面白かったです。

さてと。
せっかくの「古典よむ部」なので、原文もはっておきます☆(長くて数行だから、このわたしでもびびらず好きなとこだけ読めたよv)
原文トップは「アベラール」がきてて、なるほろ、と思ったv
(ていうはなしをすると、ミロラド・パヴィチの小説を語りたくなるがここは我慢だ!)

Dictionnaire des idées reçues by Gustave Flaubert


つぎは「美少女巫女萌え戦争小説」(けっこうあたってると思うんだけど、ダメ??)『サランボー』と思ってたが、あのセレブに憧れるお買い物好きなマダームと逢引してからにしようかなあ(とか言いつつも、さいきんガッツリとゴンブローヴィチに嵌まりまくっているのでしたw)。いちお、はっとくv


サランボー (1950年) (佛蘭西文庫〈第34〉)

サランボー (1950年) (佛蘭西文庫〈第34〉)


ボヴァリー夫人 (河出文庫)

ボヴァリー夫人 (河出文庫)

*1:カルヴィーノ様も同意見みたいでわたしは非常に安心した!!

*2:わたしはここに、是が非でもマーク・トゥエインラファティを読み取りたいし、読むべきだと思う! ラファティは別にして、インタビューにもこの名前はナイんだけど。でも、アメリカ文学の父ともいえるひとで、筏、川下、植民地、父息子、フランス、偽(?)のなりすまし人物というネタなら、当然「ハック」でしょう!!