一日一冊辻邦生さん的な何かは続いていて、先日はこれを再読した。
堅牢な美しさというか、なにもかも物凄く丁寧に選りすぐってあるというか、なんていえばいいんだろう、細部は確かに豊饒だけど、硬い感じも受けなくはない(夏の砦というタイトルに比して北のはなしだったり)、ともかくも、辻さんの後半生の「物語寄り」のおはなしとは違う。あと、何かを燃やし尽くす炎の印象がとても強い。
わたしがもっているのは文春文庫なんですが。
こちらもある。
それで、辻さんについてぐぐっていたら、
こんな素敵なブログを見つけたのではらせていただきます。
辻邦生の作品には、最良の意味での教養小説的なところがあると言ってもいいかもしれない。主人公は、あらゆる困難にもかかわらず、霊的に上昇してゆくことをやめない。ピカレスク・ ロマンは、最後に待ち受けているハッピーエンドに至るまでの同一平面上でのエピソードの繰り返しだとすると、19世紀のロマンは霊的に高まる物語であり、 現在のアンチ・ロマンは感覚的である――思い切り単純化すればこのように言うことも可能だろうし、辻邦生自身がこのように小説の推移を見ているようでもあ る。そのなかで、彼はやはり物語の復権を唱える位置に来るだろう。
それにしても、辻邦生を読んでいると、つくづく正統派だなという印象を受ける。
もう、ほんと、こういうふうにおもってる!!!
文春の『夏の砦』は「辻文学初期最高傑作」という帯がついていて、そこに「美、啓示、そして永遠」という語が記されている。
この「美、啓示、そして永遠」は辻さんの作品に常に、一貫して流れているもので、なんというか、わたしはたぶん、そこが好き、なんだろうなあとしみじみ、うん。
ところで、このおはなしのメイン舞台は北欧で、
しかも、この主人公の支倉冬子というひとの名前は何故かしら氷室冴子というひとのそれを思わせて、いや、なんかこう、音の感じと文字面とが、ね。氷室さんというひとのクールさをとても好きだとおもっていたので。
さようならアルルカン (集英社文庫―コバルトシリーズ 52B)
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支倉冬子の友人本庄玲子との会話もとても好き。「私って、あなたに惚れちゃったのかな」ていう台詞が出てきてときめいたおぼえがあるのも告白しておきます。
さて、
あらすじを述べるのはよして、わたしが特に気になったところを。
・ギュルデンクローネ家の『グスターフ候のタピスリ』はやはり農耕図だということ。
農耕図、なんですよね。
戦闘についてでも男女の恋愛といったものでなく、農耕図。
あー、これは、そうだよなあって。
今さらだけど、農耕図なのは凄く大事だったなあと。
以下、タピスリについて。
これ面白かったです。ていうか、ヴァールブルクコレクションはどれよんでも面白いですよね、うん。
フランス工芸の美―15世紀から18世紀のタピスリー (1976年)
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じぶんのメモとして(バイユーとか一角獣といった有名ドコロをはらないところがわたし流www)。
わたし、ほんとにタピスリが好きで、ちっちゃいころから好きだったんですが、あれ、なんだろうなあ、自分が初めてヨーロッパというかフランスにいってお城を見たときに、あーーーーこれだこれだ! てなった、あの感覚はあるよなあ。うん。
・『グスタフ候年代記』がツボ
年代記の翻訳が入りこんでるんです。つまりタピスリももちろん架空のものですが、年代記も。虚構内虚構の美しさよ!!!(←わたしってひとはほんともうw)
わたしが中世のレシ(物語)をどれほど愛してるか、ていう意味で。
2番目の物語が好きなひとはたぶん、そこだけでハマれます。これは十字軍ものですが、雰囲気が、ね。
・ものつくるひとは読むとイイ!
辻さんのおはなしは、芸術論創作論でもあるので。
美との邂逅、それからその美の根源へ至るための努力、そういったものから、美意識の涵養、形式を学ぶこととか色々。
・家族のはなしでもあった。
意外と、辻さんのおはなしって家族と離れる話しが多かったりする印象なんだけど、これ、「家」のはなしでもあったなあ、とか。呪縛からの解放もあるから「離れる」はそれはそれで合ってるのかもですが。象徴的だった、という意味で。
・奥様(辻佐保子さん)の幼いころの思い出のはなしでもある。
中世美術史家の!!!
この本が素晴らしくて素晴らしくて、ていう話しはもう何度もしてるので、うん。
これでしたっけ、奥様との出会いが書かれているの。
ほんともう、こんなご夫婦がこの世にあったってこと自体がもう、なんていうか、尊いことだとおもうの。
このへんも、辻さんファンは是非。
このへんは読みやすいので是非。
黙示録 MS R.16.2 (トリニティ・カレッジ図書館蔵本ファクシミリ版)
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おもいきしご専門のほうも。
これ、ね。
グラバール教授とアンドレ・マルローの関係とか。
ちなみに、人類の美術はほんとにイイ本なのでおすすめ!!!
図書館にあったら捲るといいですよ~。
マルローというひとはいろいろおもうところはあるんですが(いや、好きですけど、なんていうか、たんじゅんに好き、ていうのもどうも違うなあというか、前もひっそりどこかで書いたけどある御茶室に通されたときマルローの名前が出たことがあって、わたしにはちょっとした思い出があるひとなのだ)、この本についてはもう手放しで(いや、作られた人たちはどうも大変だったらしいという話もゼミで耳に挟んだことがあるのですが)、わたし個人としてはこういう豪華で贅沢な本、とてもありがたいです。ほんとに。
わたしは、そういえばなんでいま、辻さんに戻ってきてるんだろうなあ。まあ、いいや。うん。いろいろかんがえてる。でも全部はいわない。