九相図に足らない――夢日記8
骸骨に連れられて暗い河原を歩いている。月だけが煌々と明るい夏の夜、川風がむきだしの二の腕に冷たい。砂利道で足許が危ういのを骸骨が気遣う。ふと気づくと、手をとられる。声はやや間の抜けた男のもので、声帯がないのにどうしているのだろうとおもう。とはいえそれを問うにはいささか不躾な気がして、ありがとう、とだけ返す。骸骨は何がおかしいのか陽気にわらう。こちらを嘲笑うふうでなく、ただわたしとやりとりをするのが純粋に面白いようだった。
ここが三途の河原だったらどうしようと心配するも、骸骨にそれも聞けない。意外に臆病なものだとおもっていると、前方に明かりが見えた。
松明を掲げて人型のものが立っている。
ミイラだった。
ミイラはかすかに頭をさげた。一揖する、といったふうな挙措だった。ミイラはわたしの手をとったりはしなかった。骸骨よりも歩みが遅かった。わたしは黙ったままその隣りを歩いた。さきほどより慎重に。
次の明かりが見えたとき、わたしは厭な予感に肌を粟立てた。
血膿にまみれた腐りかけの人間が立っていた。骸骨もミイラも恐ろしくはなかったがこれは怖かった。わたしはそれをあまり見なかった。けれど、なんともいえない酷いにおいがした。吐きそうになったのを堪えた。わたしが怖気をふるったのに気がついたらしく、それは眼球のない眼窩をこちらに向けた。わたしは顔を背けた。叫び出さなかったのはたぶん、横にいるそれが悲哀をたたえていたのを感じたせいだ。
わたしを何処へ連れて行くのか尋ねたかった。こんなことならあの陽気な骸骨に聞けばよかった。
わたしの後悔を、それの足音が踏み抜いた。
ずしゃり、ずしゃりと音がしてそれがわたしの前をいく。ついていくしかないのだと、砂利の上に落ちる血まみれの肉片を踏まないように後を追った。次の明かりで「生きている人間」に導かれればいいと願いつつ。
月が、背にのしかかるように明るかった。
たぶん、九相図のツイートを見たせいだとおもう。
美女ではなく、野郎だったな。
骸骨とミイラは清潔な感じがするのにね。