がらくた銀河

磯崎愛のブログです。本館は小説サイト「唐草銀河」。

ちょいリハビリ。または準備運動。

 

私自身が、男と付き合っている間ずっと疲れきっていた。とくに社会人になってからは酷かった。デートから戻り家でひとりになると身体中の力が抜けた。だから結婚できないのだということくらい、わかっていた。
 でも、いいひとはいないの、と母親に嘆息されるのは堪らなかった。それに、カレシがいたほうが職場や友人にも言い訳できた。誰とも一緒にならないで生きていくとは決められなかったし、あたりまえに、ふつうに、みんなと同じようになりたかった。独りでいたほうが気楽だよ、と何でもなく口にできる友人が羨ましくて、その覚悟が眩しかった。
 幸い、女らしい服を着て猫をかぶっていれば、あざといことをしないでもカレシはできた。相手がいないと言うひとは、贅沢なのだ。自分を気に入ってくれたひとを好きになればいい。仕事と同じで、とにかくそれをするしか方法はないのだから。ひとりで生きる覚悟のない自分には、そのくらいの心構えは当然だと思った。
 そう考えているはずなのに、私は恐ろしいほど傲慢だった。
 相手のほうが私を好きだと言っているのだから、あちらが緊張して窮屈な思いをすればいいじゃないかと思ったりした。大事にされているのも気を遣われているのも一生懸命してくれているのもわかった。わかっているのに、そう思う。たぶんきっとちゃんと好きでいてもらっている。だからこそ、それを気持ちいいと思えない自分を罵り自嘲した。かといって別れたいとも口に出せなかった。どうせ次も大なり小なり似たようなものだろうと想像できた。慣れ親しんだ分、新しく一から始めるより楽だ。
 それでも、ふられるとホッとした。自尊心を傷つけられて辛くて悔しいものの、それは独りでいられる大きな安堵を連れてきたから。
 もちろん、その安堵も長続きしない。すぐに不安がやってきた。そのくりかえしだ。
 ふられるときは決まって、詰られた。うわべだけの優しさ、おれがいなくても平気そう、最後のところで自分を譲り渡さない――少女漫画なんかだと、そうやって振られる女の子のほうがたいてい弱くて可愛らしくできているものだけど、私はほんとに独りで平気だった。いや、独りのほうが落ち着いた。誰の顔色もうかがわず、自分の呼吸をひとに合わせることもないですむ。そう……私のほうがいつだって余裕があるから相手に合わせていられるのだと、自身がよく、知っていた。
 もっとも相手だって馬鹿ではないのだから、そうした傲慢にちゃんと気づく。でも他に方法がないのだ。自分が好きになった相手としか付き合わないというのでないかぎり……そんなの、いつあるのかわからなかった。そんな、宝くじのようなものに期待する無謀を許容できない。
 それに、彼らは私の何を見ていたのだろう。私が故意に見せようとしたところにしか反応しなかったじゃないか。
 たいていの男は家庭的で控えめでやさしげなタイプが好きだ。妻と母を混同する気持ちは偽れないらしい。そこさえ押さえれば美人じゃないことくらい、いくらでも覆せる。ことに年をとっていけばいくほど多少は賢くなり、高値の花を狙う身の程知らずの危険は冒さない傾向にある。
 私がオトコをなめてることは否定しない。しょせんこんなものだと見くびっていることも認める。
 でも、オトコだって私のことなんて、なんにも、何にも理解しようとしないじゃないか。そうであってほしいという願望ばかりで、その通りにふるまってきたのに、希望通りにふるまわなければ嫌な顔をしたくせに、最後だけは違うことを言う。



『遍愛日記』「審判の日 悔悛」より http://karakusaginga.blog76.fc2.com/archives.html#all1

昨日オトコ友達に「誰かに寄りかかりたいって思ったことないでしょ?」と言われたので、「あるよあるよア・ル・ヨーーーー! でもそうさせてくれるひとがいないんだよー! むぎゅーーーーーー!」と叫んだ磯崎愛です。
ごぶさたです。
ちゃんと週一更新死守してます。
さて。
「あんな小説書いててさびしいとか有り得ない」と言われたので記念にはっておきます。
う……ん、そうだね。
なんていうか、でも……まあ、いいや。言わん。
好きな女性、理想の女(ひと)がメルトゥイユ侯爵夫人な点で、もうダメかも。
だからというか。
キニャールが彼女を書いてくれて、わたしは本当に幸福です*1
あのふたつの言葉、そう、あのたいそう美しいふたつのことばを、「彼女」らに。

 

音楽への憎しみ

音楽への憎しみ


 
 

この世でもっとも「危険な関係」は、マリオ・プラーツ先生もいってるように「小説家」との、それ、ですよ。おほほ。
んじゃねー☆

*1:http://h.hatena.ne.jp/florentine/243615391091321104