銀色のエレベーターで地下へおり、突き当りの部屋にはいり壁面いっぱいの白い棚を次々にあけまくる。脚立に乗って端からはしまで開けたみたが探し物は見当たらない。すべてをあたっても見つからなかったと報告にいく。
友人は、そうか、とだけこたえた。続けて労いの言葉をかけて、意外に面倒だっただろうと言われた。わたしは素直に肯いた。
それから彼女は何か口にしようとした。次の指令かとわたしはその顔を見つめた。伽羅の香がする。香炉を探したが見当たらなかった。
わたしの視線が外れたのを見計らったかのように、友人は吐息をついた。その面に西日がさす。日がのびたと思った瞬間、夜、部屋に行っていいかと尋ねられた。問いかけではなかった。それがごく控えめな願い事だと気づいてわたしはこたえを躊躇った。
すると、苦笑とともに告げられた。
「あんたは戦事以外、腹芸が苦手だな」
「わたしはいくさごとは得意なのか?」
「そこで尋ね返すから食えないと褒めているんだよ。ゾンビとはいえヒト型のものを斬るのは好かないとほざきつつ、いざ出陣するとあたり一帯息をする者なしだ。あんたは敵となれば生きてる人間もためらいなく斬ると噂されてるぞ」
ふーん、と鼻を鳴らした。たぶん、それはホントウだろうなとおもった。容赦なくてごめんねと笑うと、これだからと嘆息された。いくぶん恨みがましげに聞こえたのはきっと、さきほど断ったわたしの負い目だろう。
ではまた明日と告げようとしたわたしへと、友人が言った。
「怖いから全て斬るといったことを覚えているか?」
それには首を横にふる。
また記憶に抜けがあるとかなんとか言われそうだなと思ったが友人は黙ったままだった。
「何か問題が?」
わたしが問うと、いや、特にはとこたえた。それからふと、
「ただ、あんたが不安なんじゃないかと」
「こないだみたいにいきなり手を突っ込まれるのはごめんだな」
「こうして戻ってこられたじゃないか」
「次もあるかわからない」
亀裂となる言葉を吐きだしたのは怖かったせいだろう。友人はゆっくりとかぶりを振った。黒髪が揺れるのを目の裏にとどめた。
たぶん、もう、この夢は見ないかもしれないとおもった。
続き物の夢を見る。コツはある。
寝る前にゆっくりとそれを幾度も再生する。再生をくりかえさないと忘れてしまうので、つまりは朝起きたときから夜寝るまで飽きずにくりかえすに足るだけの「強度」がいる。
わりと、うまくいく。
ただし、目が覚めると疲れていることが多い。あまり、おすすめはしない。