
- 作者: 辻邦生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/02
- メディア: 単行本
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辻邦生さんの『春の戴冠』は、《春》や《ヴィーナスの誕生》の画家として著名なサンドロ・ボッティチェリの生涯を、15世紀フィレンツェの運命とともに描き出した美しい作品です。文庫にして4巻になるといえば、どれくらいの量になるのかお察しいただけるかと思います。ですが、ルネサンス時代やボッティチェリに興味のある方には是非ともおすすめしたい名作ですv
そして、この本の第一章「悲しみの森」のはじめのほうに、主人公のフェデリコとサンドロ・ボッティチェリがルカ・デラ・R***と略された親方のモデルになるシーンが出てきます。
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ルカはそう言うと、長衣(ルッコ)の懐から帳面を取りだし、サンドロと私の顔を素描しはじめたのである。ルカは正面から私たちを描き、横を向かせて何枚か描いた。
やがてルカは私たちに銀貨一枚ずつを握らせた。それから傍らの弟子に急きこんだ調子で言った。
「おい、きまったぞ。本寺(ドゥオーモ)の合唱隊席(カントリア)の浮彫りの最後の仕切りに加える顔が、これで決ったぞ。左右の両端の仕切りの空白に彫りこむ顔だ。この子のほうを」とサンドロを指して言った。「右の仕切りに加える。そしてこちらは」と私を指して「左の仕切りの空白に彫りこむのだ。もうここの仕事なんか、いい加減にして切り上げるのだ」
私はその日の夕食の食卓で父にこの話をした。
「親方はね、ここの仕事なんで、いい加減に切りあげろって言ってたよ」
「そりゃけしからんな」父は口でそう言いながらもおかしそうに笑った。
(中略)
合唱隊席(カントリア)の右側の仕切り壁は巻物本を見ながら歌っている少年たちが浮き彫りされていた。その左奥から顔だけ覗かせて、サンドロが楽しそうに歌っていた。右に傾けた顔をすこしそらすようにして、やわらかな金褐色の髪にとりかこまれて……。
(中略)
ところで、合唱隊席の左端の仕切り壁の浮彫りの中に――冊子本(コデックス)を持って歌う少年たちの後方に、私がいる……。
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《カントリア》全体像
(リンク先に飛んでいただいたほうが大きな画像で見られます)
http://www.music.iastate.edu/courses/471/images/opera_duomo5.jpg
http://www.rositour.it/Arte/Della%20Robbia%20Luca/Cantoria%20%28Firenze-Opera%20del%20Duomo%29.jpg
大きさは、本によれば(328×560)とありました(縦横だけで幅が見当たらない。モノグラフ等もってないのでこれにて失礼いたします)。
かなり大きいので見応えがあります。いまは大聖堂付属美術館(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂 http://www.operaduomo.firenze.it/ 付属美術館 http://museo.operaduomo.fi.it/ 英語はあるみたいです)のほうにおさめられいます。
と、これだと「仕切り壁」がうつっていないので、こちら(http://fr.wikipedia.org/wiki/Cantoria_de_Luca_della_Robbia)から拾ってまいりました。
青い線で囲ったのがサンドロです。
こちらが主人公、後に人文学者になるフェデリコ(架空の人物)。なかなかの美少年ですねv
サンドロのお顔がなんかチョット怖い感じにうつってるので、画像検索かけてきた! これならどう?(我ながら、執念!!w)
http://www.aparences.net/periodes/le-quattrocento/la-sculpture-du-quattrocento-a-florence/
うん、これなら美少年なことがわかるよね?
なんとなしに、こういうロマンチックな想像は、もしかして奥様の辻佐保子先生と共有されたのではないか、というふうに勝手に思っていたりするのですが、いかがでしょうか?
天使の羽に触れるとき――辻佐保子『天使の舞いおりるところ』岩波書店(1990年)http://florentine.hatenablog.com/entry/20111228/1325082687

- 作者: 辻佐保子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1990/05/30
- メディア: 単行本
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そんなこんなで、『春の戴冠』はルネサンス時代が好き、またはフィレンツェを旅したことのある方にはとっても楽しめる小説ですので、是非どうぞお手に取っていただきたいです☆
(あと新潮社のその本はほんとに装幀が美しくてうつくしくて! 見た瞬間にぴんときますが、それ、《春》の背景の一部を切り取ってきてあるんですね。あの深い森のビリジアンを思い起こさせる。そしてタイトルの入ってる枠は金泥(と呼んでいいでしょうか?)で、表紙の樹影にもうっすらと、幽かに、ふた色ばかり暗くした花影が載せてある。そして中をひらくと、女神やニンフの足許を飾るあの麗しい植物たちが枠内にあった金泥で置いてあるんですよ。矢代幸雄氏が琳派と並べて述べたサンドロの「植物」が、ここでこうしてとりあげられている。サンドロは始め金銀細工師に弟子入りしたと言われていて、聖人の光輪などはそれ専門のひとが受け持ったというはなしも読んだことがありますが、金の配置そのもの、あしらい方がとても美しい。
あ、見ていただいたほうが早いですね。表紙の折り返しはこんな感じです。
と、
なんの話しなの、いったい!? っていう感じですが、
わたしがサンドロ大好き愛してるー! てことが伝わればそれでいいと思いますv えへへ☆
(文庫もはっとくね)
最後になりましたが、
monaca16さん、どうもありがとうございます~☆
素敵な《カントリア》アイコンのおかげで楽しく遊べました♪
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!