さてもさても、おのれの記憶力の限界を思い知らせ、感受性を刺激しまくる本である。
まずは道しるべに、ラブレーの有名な言葉をひいておこう。
Si Peu Que Rien(ごくわずか)!
いえいえ、これは間違いですよ(笑)。
あらためまして、
Senatus Populusque Romanus!(紳士淑女のみなさん!)
これなるは、文学と美術をこよなく愛するプラーツ様の『ローマ百景』でございます!*1
- 作者: マリオプラーツ,Mario Praz,白崎容子,伊藤博明,上村清雄
- 出版社/メーカー: ありな書房
- 発売日: 1999/07
- メディア: 単行本
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本書は、実のところ、マリオ・プラーツの書評集である。
また、あとがきにあるように「生まれたのも息をひきとったのもローマ」というプラーツが、どのようにその都市を見ていたかわかる「案内」でもあると思う。
もちろん、われらがプラーツ様が、ありきたりのガイド・ブックなどものするはずもない(笑)。*2
ローマに三度ばかり足を運んだだけのわたしでは、うかうかとしているとこの紳士に置いてきぼりをくらう。プラーツ様はけっして早足ではない。また不案内でもない。見るべきところはいつものごとく、恐ろしく丁寧に説明なさる。とはいえ、手をひいて指をさすほどには親切ではないところが気をそそる。また、ときどき思い出したように目配せをしてくれるのが、心憎い。
たとえば、53頁。
わたしの大好きな、サンタ・プラセデ寺院。
http://en.wikipedia.org/wiki/Santa_Prassede
ここのモザイクは夢に見るほど素晴らしく、わたしはラヴェンナを知らないのだけれども、ある方によれば、「おそらくイタリアでも最も美しいモザイク」だそうだ。
それに関連し、
http://www.romeartlover.it/Vasi127a.htm
ロバート・ブラウニングが詩を書いていることを、教えてくれる。
ブラウニングといえばわたしにとっては「フィリッポ・リッピの詩」(平川訳)であるように、イタリアに取材した詩をもっと読んでみたくなるのです。
その他、グイド・レーニについてわたしがずっと不思議に思っていたことを片付けて(笑)くれる「ローマの珠玉の芸術」や、クロード・ロランについて語る「ローマのフランス人」なども、絵画好きにはたまらないものがある。
また、知っての通りローマはバロック都市である。
わたしはあの都市に、ベルニーニを見に行ったと思っている。
現在、日本語で読めるベルニーニの本は稀少なので、この天才について語られる「ベルニーニをめぐる思弁と事実」は、大変ありがたいものだと熱烈に告白しておく。
それにしても、ローマはとにかく大きいのだ。
バロックは至極明快に、「大きい」処でないと、見応えがない。
この本にあるとおり、ローマの城壁は厚い。
レオナルド・ダ・ヴィンチ空港からテルミネ駅へと向かう列車の窓からそれを見ると、その威容に驚かされる。一時期とはいえ教皇庁のおかれたアヴィニヨンなんて街は、この都市に比べたらほんとにちっぽけで、いとおしいことこのうえない。
さらに、イタリアの他の都市とはまるで規模が違う。
ローマの娘たるフィレンツェは、やはり娘でしかないことも、理解できる。
プラーツ様はこう語る。
――フィレンツェのルネサンスについて語るべきものが「魅惑」であるとするなら、ローマのルネサンスにもっともふさわしい言葉は「荘重」だろうか―― (60頁)
もちろん、パリとも違う。この都を見た後では、パリは田舎だと感じる。
ローマ遺跡はフランスでいくつも見たし、ポンペイにも行った。
またシチリアでギリシャ本土にあるよりも美しいといわれる遺跡も見たけれど、そこはやはり属州で、世界帝国の首都ではない。
なにをあたりまえな、と言われそうだけれど、ローマはやはりローマなのだ。
この感覚は、想像を絶している。
昨今、グランド・ツアーなどという言葉は通じない、グローバルな世の中であろう。
けれど、ローマは『永遠の都市』なのだ。
すべての道は、あの都へと通じている。
おかしなことに、この本には一言もそんなことは書いていないのにそう感じるし、それはまた事実だ。
ここであらためてバルトルシャイティス様のお名前を持ち出すこともなく(でも52頁におわすのですが 笑)、これを読んだわたくしたちは、この地上をつなぐものたちを知っている。
そしてまた、本書で、わたしはそれらすべてを「つなぎとめるもの」をも知ったかもしれない。
だからここでその正体を明らかにし、
美術と文学を愛するわれらが守護聖人プラーツ様にその言葉をもってお礼にかえたいと思う。
きっと呆れて笑われるかもしれないけれど、でも、どうしても、お伝えしたいのです。
《ROMA=AMOR》
使い古された駄洒落のようだけれど、それゆえにこそ、真実ではないでしょうか?
この世のすべてをひきよせて、分かちがたく結びつけるものは、《愛》しか、ないと思う……。
プラーツ様、いかがでしょうか?*3
マリオ・プラーツ美術館
http://www.japanitalytravel.com/back/museum/2001_0621/0621.html