むかし男ありけり――そうじゃない、そういう話しじゃないんだ、と呻いている。わたしが。
じぶんの寝言で目が覚めた。
夢のなかで夢だとわかっていて、そこから抜け出したくて目覚めたいので起きられない。
改札を抜けて駅構内、天井の高いコンコース、自分の目指すほう、1、2番線ホーム階段をのぼりきったところに背の高い男がいて、あ、とおもう。あ、という、この、あ、は本当に自分のくちから漏れた。あ、の次は、いやだ、だった。見つかりたくない、気づかれたくない、会いたくない、だ。でもわたしは1番線ホームへおりたいのだ。
ひとのながれ、ざわめき、そういうものに置いていかれて、その男だけが目に入る。見れば見つかるよ、じぶんに言い聞かせる。
腕時計を見る。青い革ベルト、あ。
あ、あ。
そこで気づく、これ夢だ。いまわたしは腕時計を嵌めない生活をしてる。この時計すごく気に入ってたのに失くしたのだ。出張先のホテルで。
ああ、でも、ともかく助かった。
そう思うのに、夢から醒めない。醒めないから、その男はこちらのほうへ歩いてくる。やだないやだなと動悸がする。知らんふりをして3、4番線ホームにでもおりたらいいのにと頭ではおもうのに足が動かない。喉許から胸のあたりが苦しい。重い。
そんなに嫌な男だっただろうか、そうかもしれない、いや、そういうことじゃなくて。
くるしい、心臓のあたりが痛い。いたい。いやだいたいいやだいやだ。
くらいで目が覚めて、心臓が下になって寝てた。
左側の肋骨を折ってるので、寒かったり圧迫があると、どうもほんとうに苦しいのだ。肋間神経痛。
藤の花、こないだと同じ日に撮った。
ところで、
ここで出てくる元カレはほんとに会いたくなくて、なんだろう、むかし付き合った男で夢のなかならまた会ってみたいっていうひとは、ともかく優しいとかそういうんじゃなくて、ひたすら「面白い男」なんだよなあ。わがままだねw じぶんを楽しませてくれって思ってるんだろうなあ、わたし。優しくしてとか好きでいてとか思ってないけど面白がらせてって、わたし、ほんとしょーもないな。
しかし、そんなものである。