スカートとローファー ――夢日記9
チェックのスカートの足許は紺のハイソックスとローファーだった。
あ、これ、わたしじゃないや、てワカル。白のソックスしか駄目な高校だった。
夢のなかで、自分じゃないひとになってるときのあの感覚にとらわれる。
「ファミレス行く? それともマック?」
上から声がおりてきた。踵を引きずるようにして隣りを歩く男はきっと彼氏で、制服が同じ。もちろんスカートは履いていない。いや、履いていたっていいよ、とおもう。顔はなかなか可愛かった。
「……行かない」
「えー、じゃあどこ」
「帰る」
最後まで聞かずにかぶせるように言う。なんだよー、帰るのかよ? まだ遅くないじゃん、という不機嫌な声にそっと眉をひそめる。たしかに遅くはない。日は高い。でも家で本を読みたい。独りでいたい。ウルサイ街中も嫌い。ファミレスもマックも大嫌い。
それに、しつこい男も大っキライ。
なんでこんなのと付き合ってるんだろうと疑問をもったあたりで、うまく「シンクロ」した。
あ、そうだ。そうだった。好きな男に彼女がいるの知ってヤケになってたんだ。彼氏がいるほうが便利なのでテキトーなところで手を打ったのだ。いや、でも、テキトーすぎだね。ホントてきとう過ぎました。はい。
「ごめんね、もう一緒に帰らない」
そう言って見あげると、さすがにそのときばかりは怖い顔をした。ということがわかる程度には付き合ったようだった。
「何それ」
「束縛されるのうっとおしい」
けっこうキツイことを言ったつもりだったけれど、正面に立つ彼はさっきより表情をやわらげた。
「……なんつーか」
そこで、言葉がとぎれた。言葉を探しあぐねているのはこちらに気を遣っているのだというのが知れた。
「なに、なんか言えば?」
「いや、まあいいよ。んじゃあ、また明日」
「え」
わたしは少なからず慌てた。別れ話が通じていないのではないかと不安になったのだ。我ながらこういうところの詰めが甘い。不安になるような話のつけ方をするのはヤバイだろう。そう思ったところで彼がわざとらしいため息をついてから、とってつけたように言った。
「どーせ明日学校で会うじゃん」
「そーだけど」
「同じクラスだし」
「そーだけど」
「帰る方向も同じだし」
「や、そこはだから」
「明日はさすがに一緒に帰らないよ」
待て、その限定の副助詞はなんだ。という言葉はのみこんだ。
「どーせあんま今までと変わんないからいいよ、べつに」
いや、よくはないだろう。という言葉ものみこんだ。
「俺も、付き合ってるとか誰にも言ってないし」
も、て言うあたりが憎たらしかったけれど上手く反論が出てこない。
「てことで、送ってく」
「はあ!?」
「冗談だよ」
いまマジ切れしそうだったよな、て盛大に笑われたのが癪に障った。ただそれを真に受けてまくしたてては相手のペースだ。わたしは相手を見ずに息を整える。
それから、ちゃんと顔をあげた。
目が合うのを待つ。
「じゃあね」
くるりと向けた背中に感嘆するような声。
「ほんっっとおおおおに、負けず嫌いだよなあ」
当たり前だろう。いったいわたしをなんだとおもってるんだ。
頭の後ろに視線を感じ続けるのがそれこそうっとおしくてたまらなかったけれど、何があろうと絶対に振り返ってやるものかと心に決めていた。
ごくたまに、元カレたちに吐き出した言葉や言われたアレコレが夢のなかで繰り返されるので、わたし、弱い子ちゃんだなあって思ったりするwww
あ、どれかは秘密さ。
ここに、あるかないかも教えない。
ちなみに、
ゆるい靴を履くような野郎はみんなきっとMに違いないとおもってる。わりと本気で。