がらくた銀河

磯崎愛のブログです。本館は小説サイト「唐草銀河」。

花ちゃんと都ちゃんの「ボッティチェッリ画『神曲』素描地獄篇」漫談 その1

※参考文献はあとで落ち着いて直します。ご教示ありがとうございます!(予言通りだ 汗)


花「都ちゃん、ちょっと聞いてぇ。ゼミの発表なんだけどさ」
都「お題は?」
花「ボッティチェッリ画『神曲』素描の物語表現・地獄篇。きわめて個人的な副題が『幻視者・サンドロ』」
都「幻視者? アヤシイなあ。その人、《春》と《ヴィーナスの誕生》を描いたルネサンス時代の有名な画家だよね?」
花「そうだけど、ルネサンスの画家かどうかもアヤシイよ? まあ、その説明はおいおいするからさ。神曲、読んだことある?」
都「読んでないよ。あたし、古典は苦手。でもベアトリーチェっていう美女の名前は知ってる」
花「『神曲』は、ダンテ本人主役をはったSFファンタジーロードムービーの原作と思って読んでみてよ」


神曲

神曲


都「ハイ?」
花「そんな目むいて驚かなくても。
 まあ聞いてよ。フィレンツェ生まれの詩人ダンテ35歳、かの有名な「人生の道半ば」の、千三百年大赦の年のこと。復活祭の一週間をかけて、尊敬する詩人に連れられて三界を旅する壮大な詩作品が《神曲》です。まずは主役のダンテが地獄に落ちるところから始まって、そこにローマ時代の詩人ヴェルギリウスという偉大な先達が現れます。二人は地獄から煉獄へ回るのね。だけど、ヴェルギリウスキリスト教以前のひとだから天国には行けなくて、天国の案内には、かの麗しのベアトリーチェが出てくるのよ」
都「ボーイミーツガール。よき先輩の教示。しっかりした構成の世界観。多彩な脇キャラ。グロいホラーな味付けと主人公の成長物。まあ、言われると、たしかに娯楽エンタメ小説的な要素もあって読みやすそうだね」
花「そう思って、この挿絵を見てほしいの」


天国編第32歌


都「漫画というかイラストというか、これは天国篇?」
花「そう。天国篇第32歌。天上の世界感をサンドロの描く服のひだのヒラヒラ感や花や炎の美しさによく表れてるよね。オルガン音楽とかBGMにして捲るといい感じでしょ?」
都「これ上に絵で、下に文字があるの?」
花「うん。【一葉一歌形式】って命名した。サンドロは全百歌ある詩を、歌ごとに描いてるの」
都「へえ。文字と照らし合わせて絵を読むわけか。それが、物語表現ってこと?」
花「うんうん」
都「花、頷いてるだけじゃダメだよ。発表するんだよね、説明!」
花「あ、そうだった。この作品の概略ね。
 サンドロは1492年頃から、ロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ・デ・メディチの依頼で《神曲》の挿絵を描き始めたの。このひとは、メディチ家のロレンツォ豪華公の又従兄弟です。
 それぞれの挿絵は約32×47センチの同寸法の白い羊皮紙に素描されています。例外は、地獄編の第三四歌の第二の挿絵だけ。彩色された作品も少しあるけれど、ほとんどは金属尖筆で下書きされ、その上をペンで上書きされています。素描は、8葉がヴァティカン図書館に、84葉がベルリンにあるのよ*1
都「足しても、百にはならない」
花「そう。残念ながら、散逸してしまったのだ。早いうちにイタリアからフランスに貢物として渡ったのよねえ」
都「ふ〜ん。天国篇の薄物まとった美女や天使、綺麗だもんね。少女漫画チック」
花「うん。ルネサンス的イメージのすっきり感よりは、中世的な装飾主義っていうのかしら。サンドロは金銀細工の修行もしたのよ」
都「かと思うと、地獄の絵は全体的にオドロで歪な感じだね。地獄篇第28歌、ハラワタ出てたりしておっかないような、横の悪魔の顔は笑えるし。他の歌の悪魔もキッチュで、愛らしくて、面白い」


地獄篇第28歌


花「怖・可愛くてイイよね? ダンテの悪人描写の開き直り感もあるだろうけど、登場人物の地獄の責苦の痛々しさと困惑、奇妙な陶酔感と滑稽さが綯い交ぜで、見てると飽きないね」
都「なんか面白がって描いてる感じ。性格悪いのかな(笑)? あれ、そういえば詩人と画家の二人は同郷?」
花「その通り。画家が活躍した当時のフィレンツェは、メディチ家の庇護のもと文化芸術の華が咲き誇りダンテ研究も盛んだったの。美術史家ヴァザーリの『画人伝』によると、サンドロは、

そこで、自分が知識人であることを示すために、彼はダンテの一部分の注釈を書いた

っていうの*2
神曲》はたくさんの芸術家に影響を与えているのね。ミケランジェロでしょ、オルカーニャ、シニョレルリ、ドラクロワロダン、ギュスターヴ・ドレ、ウィリアム・ブレイク等が関連した作品を残してる」
都「ふ〜ん。壁画や挿絵、彫刻。色々あるんだねえ。同じ写本では、どうなの?」
花「挿絵入り写本は1337年から保存が記録されて、14世紀においてだけで約600の写本が存在し、サンドロの生きた15世紀ではそれを上回る数があるそうよ*3
都「人気あったんだなあ」
花「そういう先行作品と比較しながら*4、サンドロの写本構造の特徴、巻頭頁と一葉一歌形式が物語ることと、抽象概念をどう表現しているかを検討しようかな、と」
都「ちょっと待った。あんた、サンドロ、サンドロ繰り返してるけど、あたし、《春》の画家ってことしか知らないよ!」
花「あ、そっか。ごめんゴメン。
 サンドロ・ボッティチェッリの本名はアレッサンドロ・ディ・マリアーノ・フィリペーピ。1444年だか45年にフィレンツェに生まれ、1510年5月17日に没。ちょうど今年で没後500年なんだけど、イベントないみたいで寂しいのだなあ。ついでにいうと、ボッティチェッリは渾名だよ」
都「そうなんだ。てっきり苗字だと思ってた。結婚はした?」
花「う〜ん、そこは研究者たちの間でも謎とされてる問題ね。同性愛の噂もあったからねえ。貴族に結婚の話しを持ち出されて困ってうろついた、なんて逸話もあるし。それはそうと、彼、今でいう完璧なパラサイトシングル、または独身貴族なのね。末っ子で身体が弱いなんて記録も残ってるし。しかも、家のすぐそばの教会に葬られたりして。家と街を出なかったのか、出られなかったのか、問いただしたくなるね」
都「両方なんじゃないの」
花「かもね。彼は13歳から17歳くらいの年にフィリッポ・リッピの弟子になり、その後、ヴェロッキオの工房に入ります。そこにレオナルド・ダ・ヴィンチにいたの」
都「二人はライバルなの?」
花「う〜ん」
都「そこは悩むトコ?」
花「みなからライバルと目されて表立って対決したミケランジェロのような関係じゃないよねえ。ただ、レオナルドはサンドロの絵をけなしてるけど、他の画家の名前はあがってないからなあ。実は、仲がいいのかもね*5
都「へえええ」
花「うんとね、まあ、二人のあれこれはこのブログ主が小説で書くってほざいてるからおいといて」
都「おいとくのかいっ?」
花「へへへ。まあ、おなかすいたから今日はここまで!」



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卒論を晒す前哨戦と思って、以前に書いた駄文をアップしてみましたが。
なんか、もう色々ダメすぎてツライ。論文の書き方とか忘れました(涙)。
とりあえず。後で直すかも>< 
お見逃しくださいませ〜!!




〜参考文献一覧〜


(主要参考文献)
1 ケネス・クラーク著 『ボッティチェリ神曲」素描』 鈴木杜幾子、平川祐弘訳 講談社 1979
2 ペーター・ドライヤー著 『サンドロ・ボッティチェリ ダンテ「神曲」の挿絵』 前川誠郎監修 鈴木杜幾子、山下敦訳 岩波書店 1986   
3 ダンテ著 『神曲』 平川祐弘訳 世界文学全集 河出書房新社 1966    
4 P.Brieger, M.Meiss, C.Singeton, Illuminated manuscrits of the divine comedy, N.Y., 1969.


ボッティチェッリについて)
5 杉浦明平、鈴木杜幾子著 『ボッチィチェルリ』 カンヴァス世界の大画家4 編集委員井上靖 高階秀爾 1988
6 G.Mandel, Botticelli, Paris, 1968.
7 濱屋勝也編集解説『ボッチィチェルリの素描』双書版画と素描1 岩崎美術社 1973
8 矢代幸雄著 『サンドロ・ボッチィチェルリ』吉川逸治、磨寿意善郎監修 高階秀爾他訳 岩波書店 1977
9 吉川逸治 磨寿意善郎著 『ボッチィチェルリ』世界美術全集4(愛蔵普及版) 集英社 1978  


ルネサンス時代美術芸術社会一般)
10 F・アンタル著 『フィレンツェ絵画とその社会的背景』中森義宗訳 岩崎美術社 1968
11 E・ヴィント著 『ルネサンスの異教秘儀』 田中英道 藤田博 加藤雅之訳 晶文社 1986 
12 E・H・ゴンブリッチ著 『シンボリック・イメージ』大原まゆみ 鈴木杜幾子 遠山公一訳 平凡社 1991
 
  佐々木英也監修 NHKフィレンツェルネサンス
13   『夜明け ジョットと自由なる都市』
14   『美と人間の革新 ブルネレスキ、ドナテッロ、マザッチオ』
15   『百花繚乱の画家たち フラ・アンジェリコ、フィリッポ・リッピ、ウッチェロ』
16   『再生への讃歌 ボッティチェリ、ギルランダイオ、フィリッピーノ・リッピ』
17   『三巨匠 レオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロ、ラファエッロ』
18   『花の都の落日 マニエリスムの時代』 以上すべて日本放送出版協会 1991 
19 アンドレ・シャステル著 『ルネサンス精神の深層 フィチーノと芸術』桂芳樹訳 平凡社 1989
20 アンドレ・シャステル著 『イタリア・ルネッサンスの大工房:1460―1500』 人類の美術 新潮社 1969 
21 アンドレ・シャステル著『イタリア・ルネッサンス:1460―1500』人類の美術 新潮社 1968
22 高階秀爾著『フィレンツェ中央公論社 1966 
23 高階秀爾著『ルネッサンスの光と闇』中央公論社 1987
24 高階秀爾著『ルネッサンス夜話 近代の黎明に生きた人々』 河出書房新社 1987 
25 M・バクサンダール著 『ルネサンス絵画の社会史』 篠塚二三男他訳 平凡社 1989 
26 E・パノフスキー著 『イコノロジー研究ルネサンス美術における人文主義の諸テーマ』浅野徹他訳 美術出版社 1971 
27 E・パノフスキー著 『ルネサンスの春』中森義宗他訳 思索社 1973 
28 W・ペーター著 『ルネサンス 美術と詩の研究』富士川義之訳 白水社 1986 
29 R・マリア・レッツ著 『ルネサンスの美術』ケンブリッジ西洋美術の流れ 3 鈴木杜幾子訳 岩波書店 1989 


(ロレンツォ豪華王に関して)
30 イヴァン・クルーラス著 『ロレンツォ豪華王 ルネサンスフィレンツェ』大久保康明訳 河出書房新社 1989 
31 清水廣一郎著 『ロレンツォ・デ・メディチ ルネサンスの擁護者』世界を創った人びと10 平凡社 1979
32 平川祐弘著 『ルネサンスの詩 城と泉と旅人』 講談社 1987

 
(物語表現について)
33 前川久美子著 『「聖王ルイの詩篇集」旧約伝における構成と叙述』フランス文化研究第22号 獨協大学国語学部 1991 
34 K.Weitzmann,Illustrations in Roll and Codex: A Study of the Origin and Method of Text Illustration,Prinston, 1947(1970). 
35 越 宏一著 『挿絵の芸術―古代末期の写本画の世界へ』 朝日新聞社 1989 


(ダンテについて)
36 中山昌樹著 『ダンテ神曲の研究』 ダンテ全集第十巻 新生堂
37 平川祐弘著 『中世の四季−ダンテとその周辺−』 河出書房新書 1981 
38 森田鉄朗著 『ダンテ―イタリアルネサンス最大の詩人―』 世界を創った人びと8 平凡社 1979 


(その他)
39 J・バルトルシャイティス著 『幻想の中世 ゴシック美術における古代と異国趣味』西野嘉章訳 リブロポート 1985
40『新潮 世界美術辞典』 新潮社 1985
41『岩波 西洋人名辞典増補判』 岩波書店 1981


註 ※Bは文献番号

*1:所蔵と発見、その来歴は[B2]参照

*2:[B1]10頁より 

*3:[B2]15頁より

*4:先行作品との比較は[B1、2、4]と照らし、[B33、34]から筆者が総合的に判断したものとする

*5:[B5]参照