がらくた銀河

磯崎愛のブログです。本館は小説サイト「唐草銀河」。

サンドロ・ボッティチェッリの『神曲』素描 

はてなブログ復帰第一弾!
(帰ってきたよう☆)
まずはやはり、コレでしょう。


わが最愛のひと、サンドロ・ボッティチェッリ描くところの『神曲』素描。
それをもっとも手軽に味わえる大型本が、これです。
(といっても絶版なんですけどね)

この本の素晴らしいのは何といっても本来の素描本であるところの「画巻形式(一葉一歌形式)」にのっとり、絵と歌(一歌)を見開きで対比させた点にある(上下は逆だったかもしれない。すみません、持ってないので確認できず)。
この製本上の工夫なくしては、数多ある『神曲』写本史上初の、サンドロの果敢な目論みは理解されないのだ。

神曲』には、人口に膾炙した「著名な場面」が含まれ幾度も絵画化されてきている。ケネス・クラークはいくつかの先行写本を例にとりながら丁寧に比較検討を行っている。そうすることによりあらためて、過去の作品群とサンドロの素描の決定的な違いが浮かび上がる。
この、人類史に燦然と輝く長大な詩を絵画化するためには、詩(歌)の内容をただ理解してそれを表現すればいいという、安直な態度ではのぞめないのだ。

神曲』は、その構造上にも特異な仕掛けがある。
まずその構成は、序一歌を含む地獄篇34歌と煉獄篇33歌、天国篇33歌の全100歌からなっている。この規則正しさにくわえて、そこに、ダンテの三次元把握能力をひけらかすような立体構造がともなう。細部と全体のつじつま、ダンテの道程の上下左右の精確さ、その距離感などが複雑にからみあい、読者を翻弄する。
つまり、『神曲』を絵画化しようと試みた画家サンドロには、ある壮大な使命が課せられていたはずだ。彼は、地獄・煉獄・天国を巡るダンテの旅の「先達」として、読者を導かなければならない。絵画によって「『神曲』を物語る」こと。これが、彼の野望であったと思う。
それゆえにサンドロ・ボッティチェッリは、当のダンテに比すほどこの詩への理解と共感を深め、全知力と想像力をもって、その世界を再現しようと試みたのだ。


その試みが成功したか否か――それは、この本を手にとって判断してほしい。